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受動喫煙対策として職場ですべきこと~労働安全衛生法に則った対策とは?~

平成27年6月より労働安全衛生法が改正され、室内またはこれに準ずる環境下での労働者の受動喫煙を防止するための措置を講じることが必要となりました。職場では何に気をつければよいのか紹介します。

改正された内容とその背景

変更点は下記の条文が追加されたことです。

“(受動喫煙の防止)第68条の2 事業者は、労働者の受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のタバコの煙を吸わされることをいう。第71条第1項において同じ)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。”

安全衛生法(安衛法)とは、労働基準法を補うために設けられている法律で、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とします。「安全」や「労働災害」などと聞くと、工場や建設現場などの危険な仕事をイメージし、事務系のサラリーマンにとってはあまり縁がない法律だと考えている人も多いのではないでしょうか? しかし、2015年12月から、従業員が50人以上の事業場では、メンタルヘルス対策としてストレスチェックが義務化され、事務系の職場でも安衛法が身近で重要なものとなってきています。そしてメンタルヘルス対策と並んで重要な課題となっているのが、受動喫煙対策です。

受動喫煙対策が講じられるようになった背景には、受動喫煙による健康への悪影響が表面化したことがあげられます。受動喫煙とは、他人の吸っているタバコの煙を間接的に吸ってしまうことを指します。タバコを吸わない人でも、実際に吸っている人と同様の健康上のリスクを被る恐れがあることが分かっているのです。

国立がん研究センターは、2016年8月、受動喫煙のある人はない人に比べて肺がんにかかるリスクが約1.3倍にもなることを発表しました。特に1日の生活時間のなかで1/3以上を占める職場で、受動喫煙の被害にさらされることにより、健康に悪影響が及ぶ危険性が高まります。

受動喫煙防止対策は3つのステップで行う

それでは職場の受動喫煙防止対策は、どのように進めればよいのでしょうか? 対策を進めるにあたっては、次の3ステップで取り組んでいくことが大切です。

(1)現状把握と分析
まず、職場の受動喫煙の状況について情報を集め、必要な対策や実施にあたっての課題について検討しましょう。収集すべき情報としては、職場の施設の状況や、労働者・顧客の喫煙状況などが挙げられます。特に妊娠中の人や呼吸器・循環器疾患のある人、未成年の人は受動喫煙の影響を受けやすいため、そのような人がいる職場においては配慮が必要です。さらに職場の空気環境の測定も欠かせません。厚生労働省では、測定機器の無料貸出や専門技術者による実地での説明など、職場の空気環境測定について支援を行っているので、必要に応じて活用してみると良いでしょう。

(2)具体的な対策の決定
次に上記の分析を踏まえて、具体的な対策を決めていきます。推進計画や教育などの「ソフト面」の対策と、施設設備など「ハード面」の対策があります。各職場において実施可能な対策を効果的に組み合わせて行いましょう。

・ソフト面の対策
ソフト面の対策としては、受動喫煙防止対策に関する担当部署の決定や推進計画の策定、従業員に対する教育・啓発・指導、対策についての周知・掲示などが挙げられます。これらの対策は、組み合わせて実施すると効果的です。

・ハード面の対策
ハード面の対策としては、(ⅰ)屋外喫煙所の設置、(ⅱ)喫煙室の設置、(ⅲ)喫煙可能区域を設定した上で当該区域における適切な換気の実施、の3通りがあります。具体的な手法については厚生労働省のWEBサイトに記載されています。

職場の受動喫煙防止対策に係る技術的留意事項に関する専門家検討会 報告書
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000085280.html

(3)対策の実施・点検・評価
(2)で決定した対策を適切に実施しましょう。なお、職場の状況は時間とともに変化するので、適宜見直す必要があります。また、適切な空気環境の維持のために、定期的な空気環境の測定も忘れないようにしましょう。

それぞれの取り組みを行う際は、各職場において組織的に実施することが欠かせません。経営者・管理者・労働者がそれぞれの役割を果たしつつ、協力して取り組みましょう。

喫煙所を設置する際は環境等に留意する

上記の取り組みの中で最も慎重に進めなければならないのは、喫煙室を設置する際です。喫煙室を設けたものの、そこから漏れてくるタバコの煙に悩まされることもあります。実際に横浜市にある自動車教習所場に勤務する従業員が、会社の喫煙室の対策が不十分だったとして訴えたケースもあります。

喫煙室を設置する際は、可能な限り局所排気処理装置または排気扇などのタバコの煙を吸引して野外に排出する喫煙対策機器を設置します。喫煙中は扉を閉鎖して、人が出入りするときのみ扉を開放します。扉の開閉に伴う煙の漏洩は、引き戸にするとある程度緩和できると言われています。厚生労働省では、喫煙室の設置等に対して、その費用の一部を助成する「受動喫煙防止対策助成金」の制度を行っています。

「受動喫煙防止対策助成金」とは、新たに喫煙室や閉鎖された喫煙室を設けた中小企業(大企業は対象外)に対し、工事費用の半分までを補助するというものです。助成金は申請が面倒だと考え、二の足を踏む企業も多いようですが、この助成金は要件さえ満たせば、比較的簡単に支給されます。ただし計画書を提出してから、工事にとりかかる必要があり計画書を提出しないで工事にとりかかっても支給されないので注意しましょう。

努力義務だからといって放置するのはマイナス

今回、安衛法に追加された条文は「~務めなければならない」という努力義務となっており、もし守れなくてもペナルティはありません。「努力はしましたが、結果的にできませんでした」という言い訳が成り立ってしまうわけです。では受動喫煙対策はおざなりでいいのかというと、決してそんなことはありません。

昨今、従業員の健康管理を経営的な視点から捉え、戦略的に実践する“健康経営”に取り組む企業が評価される傾向があります。まさに会社の資産は従業員であり、従業員の健康を守ることは経営を維持するために不可欠だということが、ようやく理解される時代になったと言えます。そして、まさに受動喫煙対策は、健康経営の第一歩になるでしょう。

受動喫煙対策は、努力義務となっているため、真面目に取り組もうとしない会社もあるかもしれませんが、だからこそしっかりと対策をすることにより、他社と差をつけることができるとも言えるのです。


【執筆者略歴】
佐藤敦規(さとう あつのり)1964年東京生まれ。社会保険労務士・FP 
中央大学卒業後、パソコン雑誌の編集、三井住友海上あいおい生命保険株式会社の専属FPなどを経て、現在は都内社会保険労務士事務所勤務 。ベンチャー企業から芸能プロダクションまで様々な会社の顧問を担当。就業規則の作成や労務相談、助成金の申請を行っている。


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